北川民次画伯アトリエ

きたがわたみじがはくあとりえ(きゅう もろあと)


瀬戸市安戸町
 メキシコとやきものの町・瀬戸をこよなく愛した北川民次画伯のアトリエ跡が瀬戸市中心部に近いところにひっそりと佇んでいる。
 元二科会会長を務めた北川民次は明治27(1894)年静岡県金谷町に生まれ、若くしてアメリカ・キューバ・メキシコに渡る。当時のメキシコの芸術運動の影響を受け、昭和11年に帰国、同18年夫人の出身地瀬戸に疎開する。以後25年間、隣の尾張旭市に引っ越すまでこのアトリエで制作した。画伯の代表的作品が生まれた時期である。
 アトリエは坂の多い斜面を切り開いたわずかばかりの平地に建っている。東西に細長い敷地の西側に住まい、そして東側にかつての「モロ(室=ムロ)と呼ばれた陶器工場を改造したアトリエがある。間口8間・奥行き4間、周囲に壁を巡らし、窓が少なく室内には殆ど柱がない。比較的建ちの高い平屋づくりと「モロ」としての典型的な大きさの建物である。当初、土間はタタキであったがアトリエとして使うときに板張に改造されている。大正10(1921)年頃に建てられた旧 窯のものである。
 老朽化も進み、建物自体の痛みがひどく一時は取り壊しの運命に晒されたが、画伯と親交があった人たちで守る会が平成6年に結成され、年2回春秋に一般公開しながら保存に努めている。(『保存情報Ⅱ』)