むかし、むかし※1、品野の村に小牧五郎(平景伴:たいらのかげとも、とも言うが、親しみやすい名前を使った)という人が住んでいました。勇気があり、大変力の強い人でした。魚つりが大好きで、毎日のように近くの川(半田川:はだがわのこと)へ出かけ、たくさん魚をつって帰るのを自慢にしていました。となり近所の人たちは、
「五郎さんちゅう人は、本当に魚つりがじょうずだのう。」
「うちは、五郎さんのおかげで助かっとるがん。ばんげは、魚のごっつおうばっかりで・・・」
「五郎さんに世話になるばかりじゃ悪いで、米や野菜を持ってっておるがん。」
ある日、五郎はいつものように、たくさんつって帰ってきました。かごのふたを取って中をのぞいてみると、驚いたことに魚は一匹も見当たりません。ただ、竹の葉が五、六枚かごの底にひっついているだけでした。五郎は一瞬「ハッ」としましたが、どうしてこうなったか、思い当たることはありませんでした。そのため、五郎はその夜はよく眠れませんでした。次の日も川へ出かけました。
いつものように、大そうよくつれました。喜んで家に帰って、かごのふたを取ってみると、またびっくりしました。魚の影も形もありません。
「これは、きっと何かわけがあるぞ。」
「何者のしわざだろう。」
五郎はこう思いながら、次の日用心深く、川で糸をたれていました。すると、突然川上の方から生臭い風が強く吹いてきました。見ると、大きな岩の上に、白い一羽のハトが羽を広げてバタバタ音をたてているではありませんか。五郎は、
「こいつが化け物の本当の姿だな。」と思いながら、ハトをにらみつけました。そのとき、
「ボオー」というすごい音がして、白い煙があたり一面をおおいました。よく見ると、白いハトの姿はもうそこにはなく、かわって大きなへびが岩に体を巻き付けて、飛び上がるようなかっこうで、こちらをにらみつけているではありませんか。五郎は、
「ようし、この大蛇め。今にみておれ。」とばかりに、用意してきた弓に矢をつがえ、力いっぱい引きしぼり、大蛇めがけて放ちました。矢は、ビューと音をたてながら大蛇のひたいにぐさりとつき刺さりました。ひたいから、ドッと血があふれて川へ落ちました。大蛇は苦しそうにもがきながら、五郎に襲いかかりました。五郎は、
「エイッ」とばかりに、大蛇めがけて切りつけました。大蛇は頭をまっぷたつに切られ、「ドオッ」という音とともに川の中に沈みました。大蛇から流れ出る血は、まっ赤に川をそめました。
この様子を岩陰から見ていた村の人たちは、
「すごい大蛇だったのう。」
「さすが、五郎さん。強い人だ。」
「竹の葉を魚にかえた化け物は、こいつだったんだな。」
「よかったのう。もう心して、つりができるぞ。」と、口々に話していました。
その日から三日三晩、川は花のように赤くそまり、大蛇の骨も長く川底に残っていたということです。
村には平和が訪れ、だれいうとなくこの川の淵を蛇が洞というようになりました。また、花のような川、花川、半田(はだ)川と移りかわって、この辺りの土地の名前にもなってしまったと伝えられています。
※1 大永年中(1521-1528)のこと。戦国時代。