曽野稲荷

そのいなり


水野村上水野村曽野(その)に曽野稲荷大明神というのがある。昔、盛(じょう)淳(じゅん)上人(じょうにん)が諸国(しょこく)遍歴(へんれき)の砌(みぎり)、薄暮曽野郷の一農家を訪れて、一夜の宿を乞われた。主人は快くおとめ申したが、深夜別室で人の叫喚(きょうかん)するのを聴いたので、上人は訝(いぶか)しんで主人にそのわけを問われると、「当郷には古来年を経た白狐が出没して里人を悩まし悶死(もんし)さすので、農民が次第に離散して隨(したが)って田園は荒蕪(こうぶ)に帰した。今宵は私の妻がそれに煩はされているのです。」と言って泣いて語った。そこで上人は可哀そうに思召され祈祷なされると忽ち快癒した。そこで農夫は上人に請うて、田中の社から曽野郷稲荷山に御分身を勧請することにした。その後この村には、白狐の出没が絶えたという。毎年旧二月初午の日には、お祭りがあって賽客が多い。<「愛知県伝説集」昭和12年より>

曽野稲荷大明神(参道)
曽野稲荷大明神