二の椀坂

にのわんさか


伝承地 瀬戸市南山口町
 時代背景 椀貸伝説。椀貸伝説(わんかしでんせつ)は、人寄せで多くの膳椀が入用の場合、その数を頼むと貸してくれるという沼や淵の話。全国的に分布がみられる。不注意から破損したり、心がけの悪い者が数をごまかして返したので、その後は貸さなくなったという
 山口の南山、国道一五五号線の東の古い山道に、二の椀坂と呼ばれるところがあります。
 むかし、山口のある家で、嫁とり(よめとり:嫁を迎えること。結婚式)をすることになったが、宴会に使う椀がないので、どうしたらよいだろうと考えていました。そのとき、親類の者が、
「八草(やくさ)にわんがし池=正しい名は富瀬池(とみせいけ)=という池があるげな。なんでも、この池に貸して欲しい椀の名と数を白い紙に墨で書いて、池に投げ入れておくと、次の朝、ちゃんとたのんだだけの椀が岸のところに置いてあるということだで、あの神様にたのんで、借りてきてはどうか。」と、教えてくれました。
 そこで、家に人はさっそく池に出かけ、教えられたようにして、足りない汁椀(しるわん:=汁椀のことを「二の椀」ともいう。二の椀を壊した坂というので「二の椀坂」というようになりました=)を借りました。家に帰る途中、急いでいたので下り坂で、つい足を滑らせて転んでしまいました。
「ああ、痛かった。あっ、お椀が一つ壊れちゃった。」
「どうしたらいいんだろう・・・。まあ、いいや。一つくらいなら何とかなるだろう。」と、一つ足りないまま、家に持ち帰って宴会を済ませました。
 そして、元の池へ一つ足りないまま椀を返しておきました。そのときは、何ごともなく済みましたが、その後はだれかが椀を借りようとすると、池の中からきみの悪い声で、
「足りぬぞう。」という声が聞こえるだけで、椀を借りることができなくなったということです。
 その後、いつの間にか、転んで椀を壊した坂を「二の椀坂」というようになったということです。