瀬戸八景集

せとはっけいしゅう


 瀬戸八景集は稀にみる木版刷りの美冊である。しかし、心ある家の筺底ふかく秘蔵されて、世人の目に触れる事なく、語られる機会も少ない。又その内容が古文と、当時の能書家の筆のため解しがたい。瀬戸八景集は明治14年の刊行であったと思われる。栖雲居武貫の手によって編集され、それに加藤景登、花睡、健老の3人が校合として参与している。加藤景登は、山藤屋、加藤清助のあるじ。陶祖の碑を作り陶業につくすところが多かった人だが、傍ら風雅の道をたしなみ、自ら禅長庵を藤四郎山、陶祖の碑の傍らに営み、茶の友を語って、楽しみとしていた。武貫も瀬戸にきて禅長庵に遊ぶ1人であったが、陶祖の昔を思い、瀬戸の八景の諷詠をあつめて一集を出さんとして景登翁にはかり、花睡、健老の協力を仰いだものと思われる。内容は主として八景の発句を蒐めているが、和歌、漢詩も併せ、更に八景の絵を、地元の画家によって描かしめ、挿入されている。体載は美濃版、横綴、表紙とも25枚。瀬戸八景とは、「禅長庵暮雲」「祖母懐春雨」「深川新樹」「馬城郭公」「古瀬戸晴嵐」「宝泉寺晩鐘」「森橋納涼」「中嶋秋の月」である。